ササユリ~新潟県 糸魚川市~

長谷川 洋一
長谷川 洋一
山路来て、ふと立ち止まり額の汗をぬぐうとき
樹下でひそやかに揺れる白い影
夏山の暑いアプローチを癒してくれるのは
一輪の、乙女のような清浄な姿なのかもしれない
花伝説プロデューサーのスパイシー長谷川です。
山登り大好き!
植物大好き!
辛いものどゎ~い好き!
ササユリについて ささゆり 糸魚川 その特異な地
アルピニスト小野健

ささゆり

ささゆりという花がある。花言葉は清浄。別名さゆり。華奢な背格好に文様のない淡いピンクの花を一つつけ、ひそやかだが芳香は秀麗。

(写真左は谷村緑花研究所で栽培中のささゆり群)


ゆりと言えば、みなさんが真っ先に思い浮かべるのはヤマユリではないだろうか? ヤマユリは、その大きさ、個体数、生命力、華麗な文様と芳香、まさに夏山 の主演女優といったところか。対するこのささゆりは、現在では滅多に見られないほど数が減り、森の中で背丈も小さく目立たない。清純なやまとの少女のたた ずまいを失わず、なつかしい日本のこころをたっぷり秘めて揺れている。

今回、花伝説のキャストとして、数あるゆりの中からこの花を抜擢したのはこんな理由からだった。

糸魚川 その特異な地

なぜ糸魚川から? と訊かれる。「ささゆりの生育北限だから」と答えることにしている。
南方のものより小さく可愛いこの地のそれは、高さ40センチにも満たない。
都会の女性の部屋にも似合いそうだ。この生育限界では群れることもできず、ひとり寂しく咲いていることも多いという。このためメシベが短くなり、自家受粉しやすく進化したらしい。
2008年3月、ささゆりは「糸魚川市の花」に選ばれた。



(写真左から米田徹・糸魚川市長と長谷川、小野健さん)

もうひとつ、糸魚川こだわった理由は、その地の特異さにある。フォッサマグナのダイナミックな山岳地形。翡翠の川。奴奈川姫(ぬながわひめ)の伝説。この不思議な土地は、何か古の神々の力を感じさせてくれるのだ。

そして最後の、いや本当の理由は、一人の山男との出逢いであった。

アルピニスト小野健

山の世界でオノケンの名を知らない者はいない。
日本海から北アルプスの頂稜へ登る栂海(つがみ)新道を鉈で切り拓いた男。1930年代の、この道の開拓をめぐる政府筋との大立ち回りは、すでに山男の間の伝説だ(山族野郎の青春・山と渓谷社 など)。今では栂海新道は一般の登山道となり、国土交通省の管轄になった。淡々と予算がついて国の規定どおり、「遊歩道」としての味気ない整備が進んでいくだろう。そして開拓者たちの名前は道標にも記されない。

「それでもいい。今回の花伝説でも、主役は宇宙へ行った花。私たちの名前は残らない。同じことです。」 山男はロマンだけを追い求める。

さて、山好きの私にとってオノケンはヒーローだったわけだが、その山男が実は工学博士であり文化協会会長でもあり、ささゆりの栽培をしていることを知ったのは数年前だ。簡単な手紙と電話一本で、私の思いは伝わり、ささゆりの種を提供していただけることになった。

とはいえ、ササユリの栽培は簡単ではない。特に今回は種を採らねばならないので通常(球根を採る)と方法が違う。糸魚川市の谷村緑花研究所では、宇宙へ行くゆりたちが元気に成育している。早いものでは4月下旬に花が咲いたが、種はじっくりと熟成させ、8月のお盆ごろに採取する予定だ。

(写真は、ささゆりを栽培する藤田央子主任と小野健さん)

▲ページトップ